第16回 新規事業を成功に導いた起死回生ストーリー(陸王の最終話より)

 

フェリックスとの事業提携交渉が決裂した後、こはぜ屋のメンバーは、シルクレイに興味を持ってくれそうな企業に対して営業を行います。どの会社もシルクレイの良さは理解してくれるのですが、1億円の設備資金融資が大きな壁になっていました。ただ、初めての営業先で、商品説明したあとに1億円の融資をお願いすることは常識的に考えても無理があります。

 

しかし、あるヘルメットメーカーの担当者はシルクレイを気に入り、設備資金融資についても「上司の決裁が取れたら連絡する」ということになりました。これが実現すればスゴイことになりますが、アトランティスからの妨害工作があり、ご破算になります。

 

埼玉中央銀行の融資課長との面談中、宮沢社長の携帯電話が鳴ります。フェリックスの御園社長からです。先日の面談で非礼があったことを詫びてから「ひとつアイデアがある」ということを宮沢社長に伝えます。後日、宮沢社長は坂本とともに再びフェリックスを訪れ、御園社長と面談します。

 

御園社長は、こはぜ屋との業務提携を提案します。その内容は…

・シルクレイ製造機の開発資金として3億円を融資すること

・フェリックスの製造計画に応じて、シルクレイを発注すること

・上記の発注については3年間保証するが、その後の発注は保証しないこと

・融資した3億円の返済期間は5年。返済できない場合は買収されてフェリックスの子会社になること

 

御園社長との面談後、陸王プロジェクトのメンバーだけでなく、他の社員も集まって社内会議を行います。陸王プロジェクトのヤスは「フェリックスの提案を受けて陸王が成功すれば、3億円は返済できる」と主張。しかし、経理担当の富島専務は否定的です。みんなの意見を聞いた後、宮沢社長はフェリックスの提案を受けたいという考えを伝えます。

 

「こはぜ屋を守るためには挑戦するしかないんだ!」

 

「諦めずに挑みつづければ、必ず道は開ける!」

 

宮沢社長の強い気持ちに社員は次々に賛同します。最後まで後向きだった富島専務も覚悟を決めて賛成します。3億円を5年間で返済することは、かなりキツイと思いますが、陸王の製造・販売の再開が可能になりますし、3年間はフェリックスがシルクレイを発注してくれます。この提携話を受託する以外、こはぜ屋が生き残る道はないと思います。

 

こはぜ屋の方向性が決まってから暫くして、豊橋国際マラソンのスタート地点に陸王の関係者が集まります。宮沢社長、こはぜ屋の社員、飯山顧問と奥さん、ベンチャーキャピタルの坂本、シューフィッターの村野。R2を履いて出走する茂木選手を応援するためにやってきたのです。会えるかどうかは分かりませんが、宮沢社長と村野は茂木選手がいる選手控室に向かいます。

 

茂木選手に会うことができた宮沢社長は、社員が作った靴ひもをお守りとして持っていて欲しいと伝えます。R2を履いて出走しようとしていた茂木選手は、宮沢社長と話していく中で自分の本当に気持ちに気付いていきます。

 

村野から最新バージョンで最後の一足となった陸王を、既に手渡されており、カバンの中に入っています。自分の気持ちに正直になった茂木選手は、R2を脱いで陸王を履き、スタート地点にやってきます。茂木選手の行動は契約違反になりますが、どんなペナルティも受ける覚悟は出来ていたのではないかと思います。

 

いよいよレースがスタート。ライバルの毛塚選手との激闘の結果、茂木選手は優勝します。レース後の優勝インタビューで、自分を勝利に導いてくれた陸王と献身的にサポートしてくれたこはぜ屋に感謝の気持ちを伝えます。そして、怪我をしてから現在に至るストーリーを語ります。

 

大企業が行っている意図的・誘導的な広報PRではなく、心からの感謝を伝えようとする茂木選手のひと言ひと言がテレビで放映されていきます。ヤラセはありませんので、これは物凄いPR効果を生みます。

 

優勝インタビューが行われている頃、こはぜ屋の社屋には誰もいません。すると電話が一つ鳴り二つ鳴り、やがてすべての電話が鳴り出します。おそらく、茂木選手の優勝インタビューを見た法人や個人からの問い合わせであると推察できます。茂木選手の復活ストーリーは、こはぜ屋の復活ストーリーの呼び水になります。

 

そして、レース後のこはぜ屋では、陸王の電話注文が殺到しています。息子の大地がメトロ電業に内定したことを告げていますので、茂木選手の復活優勝からそれほど時間は経過していないはずです。さらに1年が経過して、こはぜ屋は大きく飛躍します。売上は30億円になり、社員も20人から60人に増えました。第2工場も完成し、すべてが順調に推移しているのです。

 

ハッピーエンドに異論はありませんが、中小製造業の実態を知る僕からみれば、現実離れしているように感じました。では、リアルの場合はどうなるのか。考えられる課題をいくつか挙げておきます。

 

まず、一番の課題であった資金調達については、フェリックスとの業務提携で解決することができました。名も無き中小企業に大企業が3億円の融資を行うことは異例中の異例だと思います。ただ、世の中が大きく変化していくと、このような事例が普通になっていくかもしれません。

 

次の課題はシルクレイの量産機の製造になります。飯山顧問が量産機を設計しているシーンがありましたが、フェリックスからの発注や陸王の製造を賄うためには大量生産できる機械とシステムが必要です。

 

レース終了後、量産機とシステムの設計を大急ぎで行い、大手機械メーカーに製造してもらったとしても最短で1年、普通であれば2年くらいは掛かるはずです。現状としては、陸王の注文が殺到しても出荷できる商品はありません。こはぜ屋の信用を落とさないためにも問い合わせや注文のあった法人や個人に事情を説明し、出荷できるまで待ってもらうことが必要になります。こうした対応も課題になるでしょう。

 

他にも課題はありますが、キリがありませんのでこのくらいにしておきます。最後に最重要ポイントをお伝えしてエンディングにしたいと思います。

 

このお話の最後で、こはぜ屋を訪問した銀行の支店長と融資課長に対して宮沢社長は、年商30億円、社員数60人になったことを伝えるシーンが出てきます。このようなシーンを成功イメージとして映像化し、陸王プロジェクトを立ち上げた時に、頭の中で何度も何度も繰り返し再生する。これこそが成功するための最重要ポイントになります。

 

成功イメージの映像を繰り返し再生することで「やれるかもしれない」という気持ちになり、やがて「自信」が湧いてきます。さらに繰り返し再生することで自信が「確信」に変わってくるはずです。確信することが出来たときに具体化するための事業計画書の作成に取り掛かってください。

 

成功イメージの映像が作れない、もしくは作ったけど繰り返し再生することを習慣化できない場合、その新規事業は面白くないし楽しくないものと推測できますので、成功する確率は低いでしょう。面白くて楽しいと感じられる新規事業であれば、成功イメージの映像化は簡単だからです。

 

プロゴルファーを例にすると、ボールを打つ前には必ず理想の弾道をイメージし、頭の中で映像を再生しています。再生後、実際のボールを打ちます。新規事業でも、まずは成功イメージを映像化し、確信が持てる状況になってから実際の活動に取り組むべきではないでしょうか。

 

さて、「陸王」にからめて新規事業に関するコラムを書いてきました。何か一つでも役に立つコンテンツがあれば嬉しいです。是非、御社の新規事業の企画や立ち上げ、そして実行に活用してください。ここまで読んでいただき、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました!