第14回 新規事業に協力する社長の表と裏(陸王の第8話より)

 

前回のコラムでは、新規事業を続けていくための社長の覚悟についてお話ししました。今回は、陸王プロジェクトに協力する社長の表と裏についてお話ししていきます。橘社長、飯山元社長、今回登場する御園社長の3名です。

 

 

1.橘社長
第6話で、橘社長はニューイヤー駅伝に出場する茂木選手を応援するために、わざわざスタート地点まで来てくれました。来てくれたことに対して、宮沢社長がお礼の言葉を掛けたとき、明確な返答をせずに少し困ったような顔をしていました。この時点でアトランティスからの交渉が進行中だったかもしれません。雰囲気や表情を読み取って、様子が少しおかしい。宮沢社長がそのように考えるのは難しいでしょうね。

 

ただ、ここまでのアトランティスの行動から推測して、妨害工作があるかもしれない、と予測することはできます。なので、アッパー素材の原材料供給については契約書を取り交わし、競合他社には絶対に供給しないことを明確にしておくべきでした。

 

さらに言えば、タチバナラッセルや橘社長について、出来る範囲で調べておく。銀行から紹介された会社なので、銀行の担当者からヒアリングするだけでも情報を集めることができます。「最初から疑ってかかるのはどうなのか」という意見もあるかもしれませんが、人は追い詰められると心変わりするものです。そうした人間心理を踏まえて、情報収集しておくことは、会社を守る社長の義務であると思います。

 

 

2.飯山元社長
飯山元社長は、怖そうな表情や本音の言葉からイメージが良くありません。本当は裏表のない性格ですし、陸王プロジェクトのためにシルクレイ製造機も提供してくれているので、宮沢社長を裏切るようなことはないと推測できます。

 

元々がものづくり会社の社長だったので、陸王のソール開発も真摯に取り組んでいます。第3話では深夜の工場に残って、たったひとりでソール開発をしていました。宮沢社長は、飯山元社長の努力している姿勢やプロセスを見ていましたので、厚い信頼を寄せていると思います。

 

飯山元社長も宮沢社長の苦しい立場を腹の底から分かっています。ですから、過去の苦い経験から的確なアドバイスをしてくれます。短い言葉のなかに経営者でないと理解できないことが含まれているのです。技術だけでなく経営についても頼れるパートナーであると思います。

 

 

3.御園社長
ベンチャーキャピタルに転職した坂本さんの仲介によって、宮沢社長は御園社長と面談します。御園社長は、各種アウトドア商品を製造・販売するフェリックスの創業者であり、短期間で大企業に育てあげた人物。見映えも良くて、論理的に爽やかに話すイケメン社長です。

 

会社の買収によって、こはぜ屋がフェリックスの子会社になったとしても、①宮沢社長の役職はそのままで、従業員の雇用も保証する。②既存事業である足袋や足軽大将の製造を継続しても良い。③陸王の開発資金として3億円を用意する。④その変わりにシルクレイを使用したパーツをフェリックスの商品用として製造する。これらが主な買収条件になります。

 

宮沢社長にとっては理想的な条件が揃っています。ただ、条件が良すぎるのです。ここでは相手(御園社長)の思考と立場になって考えてみることが必要です。御園社長が欲しいのはシルクレイの特許と製法です。これは面談時にも明らかにしています。では、シルクレイを除いたこはぜ屋に買収するだけの価値があるのか。それを御園社長になって考えるのです。

 

極端にいえば、シルクレイの特許と製法をこはぜ屋から取り上げてしまえば、用無しになる。あとは潰してしまえばいい。このような最悪シミュレーションも想定しておくことが必要です。

 

陸王の開発資金はのどから手が出るくらい欲しいと思いますが、決して焦ってはいけません。魅力的な提案をする御園社長についても出来る範囲で情報を集めて、その真意を見極めていくことが求められます。