第12回 新規事業のための認知度向上と販売強化策(陸王の第6話より)

 

 

2018年、元旦のニューイヤー駅伝(この大会は実在します)、ダイワ食品の茂木選手は陸王を履いてレースに臨みます。彼は第6区を走ります。レースが始まり、8位でたすきを受け取ると、前を走る選手を次々に抜き去ります。快走を続ける茂木選手は、ライバルであるアジア工業の毛塚選手に追いつき、タイミングを計って追い抜きます。

 

レースは所属企業の看板を背負う茂木選手と毛塚選手の戦いですが、それと同時に、こはぜ屋の陸王とアトランティスのR2の戦いでもあるのです。茂木選手は毛塚選手に勝ち、ダイワ食品チームは2位になりました。

 

「陸王は唯一無二のランニングシューズです。早く商品化してください」レース後に茂木選手は宮沢社長に力強く訴えます。この言葉によって、陸王の商品化は前進しました。

 

レース後の祝勝会、宮沢社長はチーム陸王のメンバーに陸王の商品化を発表します。スポーツショップの有村とシューフィッターの村野に商品化の是非を問いますが、二人は賛成してくれました。メンバーのモチベーションも高まり、良い雰囲気になりました。

 

翌日のスポーツ紙には茂木選手が勝ったのではなく、毛塚選手が体調不良で順位を落としたことが書かれていました。新聞記事は広告ではないので、茂木選手の復活勝利をどのように表現するかは新聞社の裁量になります。

 

ただ、茂木選手が毛塚選手に勝ったという事実は残ります。物語の中では出てきませんが、茂木選手の復活勝利に貢献したのはこはぜ屋が製作した陸王であることを文章化し、プレスリリースを作って、スポーツ紙以外のマスメディアに情報発信するべきです。

 

理想は茂木選手が毛塚選手に勝つことを想定して、レース前にプレスリリースを作っておきます。レース翌日にリリースを配信すれば、スポーツ紙以外で興味を持ってくれる新聞社・テレビ局、陸上専門誌から問い合わせがあるはずです。僕がチーム陸王のメンバーであれば、この策を宮沢社長に伝えて実行してもらいます。

 

さて、ようやく陸王は商品化され店頭に並びます。しかし、思うように売れません。物語の中では百貨店のランニングシューズ売場に陳列されていましたが、単純に平積みしているだけでした。売場を歩いているお客様に興味を持ってもらい、陸王を手に取ってもらうための仕掛けや工夫が全くありません。足袋を納めている百貨店の担当者に無理を言い、ランニングシューズ売場に置かせてもらった。推測ですが、それが実情だと思います。

 

ソールの薄い陸王はミッドフット着地には最適ですが、一般的なランナーはかかと着地が大半を占めます。商品説明のない陸王を見て、手に取っても「軽いけどソールが薄いので、自分には合わない」と思い、買わないお客さんが多かったと思います。

 

こはぜ屋は足袋を作る会社なので、ランニングシューズを買うお客さんのニーズや心理が全くわかっていません。さらに、店頭陳列における見せる(魅せる)方法やノウハウも持っていません。もし、私がチーム陸王のコンサルタントであれば正式発売する前に、有村さんのスポーツショップで、期間限定(1週間から10日間くらい)のイベント付き先行販売を行います。お世話になった有村さんのショップに対して、売上という形で貢献することもできます。

 

具体的な集客方法として、有村さんのショップの顧客リストを使い、ダイレクトメールを出します。ダイレクトメールの費用負担は、有村さんと宮沢社長が相談して決めればいいでしょう。

 

専門店でランニングシューズを買うお客さんは、それなりに知識や経験があります。もちろん、茂木選手の活躍についても知っているはずです。復活勝利をサポートしたのが陸王であることをダイレクトメールの文面で伝えれば、興味・関心が高まり、来店率は高くなるはずです。

 

また、来店率をもっと高めるために、土日に茂木選手が来店してサイン会やトークショーを行うことをダイレクトメールに書いておきます。茂木選手を使うことについては、宮沢社長がダイワ食品と事前交渉しておくことが必要ですが、大きな問題はないと思います。

 

さらに、期間限定のイベント付き先行販売、茂木選手の来店といった内容をうまく表現して、プレスリリースを作成。これをマスメディアに送ります。先行販売の前後でマスメディアに取材してもらい、記事掲載や番組出演が実現すれば、陸王の認知度向上と販売強化につながるはずです。

 

先行販売の期間中は、宮沢社長や息子の大地など、チーム陸王のメンバーが交代で店頭に立ち、店頭陳列の方法やノウハウ、顧客心理、接客等について、実践しながら勉強していきます。有村さんは親切なので、いろいろとレクチャーしてくれるでしょう。

 

店頭に立つことで、いろいろなことが見えてきます。例えば、ニューイヤー駅伝で茂木選手が陸王を履いて疾走しているシーンの写真を使って、大型ポスターを制作。このポスターを店頭や売場に貼ることで注目され、興味・関心を集めることができます。ポスター制作を見越して、事前にプロカメラマンに依頼して茂木選手が走っているところを撮ってもらうことが必要になります。

 

ポスター以外にもPOP(紙の上に商品名と価格、キャッチコピーや説明文、イラストを手書きしたり、写真を貼り付けたシンプルな広告媒体)やプライスカードも必要になります。陸王を入れる箱の中に購入者登録ハガキを入れて、顧客管理することも必要です。「陸王クラブ」というコミュニティを作って、購入者登録ハガキを送ってくれた顧客にプラスチック製のメンバーカードを送るという方法が考えられます。メンバーカードは単純な販促ツールですが、意外とうれしいものです。

 

顧客管理やコミュニティの立ち上げ・維持には、WEBやITに精通した人材が必要になります。こはぜ屋でこのような業務を担当できる人材はいないので、当面は息子の大地に担当してもらいます。大地はソールの開発と製造を担当していますが、頑張ってもらうしかありません。

 

店頭において実施した方策を全てパッケージ化します。そして、有村さんと同じようなスポーツショップにパッケージの内容を提示し、陸王を置いてもらうことを提案します。マスメディアに出た効果があれば、全国のスポーツショップから問い合わせがあるかもしれません。スポーツショップ以外に量販店からも問い合わせがあった場合、陸王の供給能力を考えて、宮沢社長が判断すれば良いと思います。ちなみに百貨店のような業態は、問い合わせがあっても対応しないほうがいいでしょう。そこに陸王の顧客は存在しないことは証明済みですから。

 

簡単にまとめることはできませんが、良いモノを作れば売れるというのは幻想であり、中小製造業が陥りやすい悪いパターンになります。今の時代、良いモノを作って提供することは当たり前です。見込客に良いモノ(陸王)を、どのような形で知ってもらい、興味を持ってもらい、購入してもらえるか。事前に戦略を練り、戦術を計画し、武器(様々な販売促進ツール)を準備しておくことが必要なのです。今回は店頭販売についてお伝えしましたが、当然、ネット販売も視野に入れておくべきです。

 

 

今後、こはぜ屋が陸王の認知度向上と販売強化にどのように取り組むのか。これからも注目したいと思います。