第11回 新規事業開発プロセスから生まれた関連商品(陸王の第5話より)

 

 

「今のこはぜ屋は泥船だ!いつか沈むと分かっているのに何もしない船長がどこにいる。乗組員たちと力を合わせて生き残る方法を探して、努力するのが当たり前じゃないか!」宮沢社長の激しい声が響きわたります。

 

「船を早く沈めてしまうことになってもですか。私はやはり、先代や先々代とともに作ってきたこはぜ屋を少しでも長く残していきたい!」一歩もひかない富島専務。そして、本質を突く言葉が出てきます。

 

「私にとって、こはぜ屋は足袋屋です。シューズメーカーじゃない!」

 

宮沢社長と富島専務は、陸王の開発について意見対立しています。対立していますが、二人はこはぜ屋のことを誰よりも考えています。ただ、終着点が違っているのです。

 

宮沢社長は製造する商品が変わっても、将来に渡って会社を残すことを考えています。それに対して、富島専務は陸王の開発をあきらめ、既存商品である足袋の製造だけに集中し、足袋市場の縮小・衰退と共にこはぜ屋が廃業しても構わないと考えています。

 

資金調達やアッパー素材の探索など、山積みになっている問題に、宮沢社長は頭を抱えてしまいます。そうした中、家族団らんの中で新しいアイデアを思いつきます。

 

既存の地下足袋はゴム底になっていますが、これをシルクレイにすることで、今までよりも軽くて丈夫な新しい地下足袋を作ることができます。アッパー素材は既存の地下足袋のものでOKですし、ソール成型もランニングシューズほどのクオリティは要求されません。

 

陸王はランニングシューズなので、新しい販路(スポーツショップや大型量販店など)の開拓が必要になりますが、新しい地下足袋は既存の販路で売ることができます。この新しい地下足袋が売れれば、陸王の開発を続けられます。

 

宮沢社長はプロジェクト会議の中で、新しい地下足袋を開発して売ることを提案します。前向きな取り組みにメンバー全員が賛成します。いつも反対意見を述べる富島専務も積極的な意見を述べて賛意を示します。

 

新しい地下足袋は「足軽大将」を名付けられ、生産が追いつかないくらいのヒット商品になります。陸王の開発を続けていたことで、足軽大将が生まれたことを理解した富島専務は、陸王の開発継続を認めます。

 

では、陸王と足軽大将を市場と商品というマトリックスを使い、位置付けの違いを説明したいと思います。まずは以下のマトリックスをご覧ください。

 

 

Aは既存市場(顧客)に対して既存の商品を販売しているカテゴリーです。つまり、既存商品である足袋を既存の販路で売っていることになります。

 

Bは既存市場(顧客)に対して新規の商品を販売するカテゴリーです。これは、新商品開発に該当します。足軽大将はこのカテゴリーに位置付けられます。発売当初はフレッシュな新商品である足軽大将も、時間の経過とともに既存商品化していきます。つまり、Aのカテゴリーに移行することになるのです。

 

Cは新規市場(顧客)に対して既存の商品を販売するカテゴリーです。これは、新市場開拓に該当します。例えば、日本国内で製品をつくって販売してきましたが、同じ製品を海外拠点に輸出して販売することで、新市場を開拓します。こうした新市場も時間の経過とともに既存市場化していきます。必然的にAのカテゴリーに移行することになります。

 

Dは新規市場(顧客)に対して新規の商品を販売するカテゴリーです。陸王はここに位置付けられます。そして、新規事業に該当するカテゴリーになります。なぜかと言えば、DはAに移行することがないからです。つまり、AとDは同じ部署もしくは事業部で行うのではなく、別の部署もしくは事業部で実施すべきものだからです。

 

陸王が成功した場合、社員を増やして事業を行うのであれば、足袋事業部とシューズ事業部という形で分けるほうがいいと思います。お客さんも商品もそれぞれ違いますから、それぞれの部門で戦略と戦術を考えて実行するほうが効果的だからです。